【火山と大量絶滅の歴史】地球の不思議

【大量絶滅 1】90%が死滅したペルム紀末。窒息する海と連鎖するドミノ

2026.01.19 公開

【火山と大量絶滅の歴史】
第1回:90%が死滅したペルム紀末。窒息する海と連鎖するドミノ(本記事)
第2回:恐竜が地球の主役へ。三畳紀末の逆転劇
第3回:白亜紀末の恐竜絶滅。巨大火山と隕石衝突のダブルパンチ

私たちは今、四季があり、酸素が豊富で、穏やかな海がある地球を当たり前だと思っています。しかし、地質学という長い物差しで測れば、今の安定はたまたま訪れている奇跡的な静寂に過ぎません。

地球の歴史では、全生物の75%以上が短期間に姿を消す異常事態が、これまでに5回起きました。これを科学の世界では「大量絶滅(ビッグファイブ)」と定義しています。単なる絶滅ではなく、生態系の土台からごっそりと入れ替わる惑星規模のリセットです。

「大絶滅展 ―38億年の歴史に刻まれた5回の大量絶滅―」(※)でも、このビッグファイブの迫力ある標本や映像を間近で見ることができます。筆者も国立科学博物館に足を運びましたが、巨大な化石や最新のCGで見せつけられる絶滅の瞬間は、本や記事で読むよりもはるかにリアルな衝撃を与えてくれました。

※2026年2月23日まで上野の国立科学博物館で開催、2026年3月20日から6月14日まで名古屋市科学館にて開催中。

地球を襲った5回のリセット「ビッグファイブ」

本題に入る前に、地球が経験した5つの試練を振り返ってみましょう。これらが、生命の歴史を塗り替えてきた分岐点です。

  1. オルドビス紀末(約4.4億年前)
    超氷河期の到来により急激に海面が低下し、三葉虫などの浅い海に住む生物が壊滅しました。しかし、このリセットが魚類の多様化を促すスペースを作りました。
  2. デボン紀末(約3.7億年前)
    大規模な海洋酸欠が発生し、当時海を支配していたダンクルオステウスのような巨大な板皮類(甲羅を持つ魚)が姿を消しました。その空白を埋めるように、私たちの祖先である四肢動物が陸へと進出を始めました。
  3. ペルム紀末(約2.5億年前★今回詳述)
    地球史上最大の火山噴火が起き、生命の90%以上が消え去る「最悪の事態」となりました。この壊滅的な被害を乗り越えた種が、後の恐竜や哺乳類へと繋がる道を切り拓きました。
  4. 三畳紀末(約2億年前★【大量絶滅 2】で詳述)
    巨大大陸の分裂に伴う噴火で温暖化が起き、ライバルだった巨大ワニ類が衰退しました。結果として、低酸素に強い体を持っていた恐竜たちが、ついに地球の覇権を握ることになりました。
  5. 白亜紀末(約6,600万年前★【大量絶滅 3】で詳述)
    隕石衝突と火山のダブルパンチにより、長らく君臨した恐竜が絶滅しました。この劇的な環境変化が、夜の陰に隠れていた哺乳類たちを、日の当たる場所へと引っ張り出したのです。

このシリーズでは、現代の私たちにとっても多くの示唆を与えてくれる、特に火山の影響が色濃い3つの事件を深掘りしていきます。

史上最悪の3回目「グレート・ダイイング」

ビッグファイブの中でも、群を抜いて凄惨だったのが、3回目に起きたペルム紀末の事件です。専門家はこれを、畏怖を込めて「グレート・ダイイング(大いなる死)」と呼びます。

当時の海にいた種の約96%、陸上の約70%が絶滅しました。三葉虫や、初期の哺乳類の祖先、巨大な昆虫たち……地球上の生命という物語が、あと数パーセントで打ち切りになるところだったのです。この時の犯人は、現在のロシア・シベリア付近で起きた超大規模な火山活動、「シベリアン・トラップ」でした。

しかし、筆者が最も恐ろしいと感じるのは、噴き出した溶岩そのものではありません。それは、火山が引き金となって地球の環境バランスを壊し、ドミノ倒しのように崩壊させた、緻密で残酷な連鎖にありました。

温室効果:火山ガスが地球をサウナに変える

噴火とともに、膨大な二酸化炭素(CO2)が大気中に放出されました。CO2には、地球から宇宙へ逃げていこうとする熱(赤外線)を吸収して、再び地表へ跳ね返す温室効果という性質があります。

その結果、地球の気温は10℃以上も上昇しました。この急激な温暖化が、さらに強力な酸の雨を呼び寄せます。酸性雨は、それまで安定していた陸地の岩石を化学的に溶かし始めました。これを化学的風化と呼びます。この時、岩石の内部にごく普通に含まれていたリン(P)という元素が、一生分が一気に流れ出すような勢いで海へと注ぎ込まれたのです。

窒息する海:二段階の酸素略奪

リンは、植物にとっての強力な肥料です。これに反応してプランクトンが異常増殖(ブルーム)しましたが、事態はここから二段階の地獄へと向かいます。

第一の地獄は、「光の遮断」です。海面がプランクトンで真っ黒に覆い尽くされると、太陽の光が海の奥深くまで届かなくなります。すると、海中で酸素を作っていた海藻などが光合成をできずに死に絶え、海への酸素供給がピタリと止まってしまいました。

第二の地獄は、「微生物による酸素の使い果たし」です。やがて寿命を迎えたプランクトンの死骸が海底に積もると、海底に住む好気性(酸素を使う)微生物たちが、これら大量のごちそうを分解するために一斉に活動を始めます。

ここでいう分解とは、生物学的には有機物を酸化してエネルギーを取り出す(呼吸)という作業です。つまり、降ってくる膨大な死骸を処理しようと微生物たちが猛烈な勢いで呼吸をした結果、海の中に溶けていたわずかな酸素をすべて吸い尽くしてしまったのです。

硫酸塩還元細菌の台頭と死のガス

酸素が完全に失われた海は、私たちのような生物にとっては死の世界ですが、特定の細菌にとっては最高の環境となります。それが硫酸塩還元細菌です。

彼らは酸素がない場所で、海水に含まれる硫酸イオンを使ってエネルギーを作り出します。その際の副産物(排泄物のようなもの)として排出されるのが、猛毒の硫化水素(H2S)です。硫化水素は細胞内のエネルギー生産を停止させる強力な毒性を持ち、さらには大気中へと漏れ出してオゾン層まで破壊しました。

  1. 海面での増殖:太陽光を遮り、光合成による酸素供給をストップさせる。
  2. 死骸の沈降と分解:微生物が死骸を分解する過程で、海中の酸素を吸い尽くす。
  3. 毒ガスの発生:酸素が消えたことで、硫化水素を出す細菌が爆発的に増える。

この連鎖により、海は窒息する毒のプールへと変わりました。逃げ場を失った魚や三葉虫は、文字通りなす術もなく全滅していったのです。

連鎖を止めるためのリセットという知恵

このメカニズムは、一度スイッチが入ると自ら崩壊を加速させてしまう正のフィードバックの恐ろしさを物語っています。筆者たちの日常でも、ミスが重なり、焦りがさらなるミスを呼ぶドミノ倒しが起きた時、個別の事象を直すだけでは不十分で、システム全体を一度休止させ、リセットする勇気が求められるのかもしれません。

また、一見良いものであっても、過剰に供給されれば毒になります。情報の過多や、組織への過度なリソース投入が、現場を富栄養化させ、本来の目的を見失わせていないでしょうか。あえてコントロールしすぎない共生や、適度な不足状態を維持することこそが、長期的な回復力を生む土壌になるのでしょう。

史上最悪のリセットを経て、地球の酸素濃度は過去最低レベルまで落ち込みました。しかし、この絶望的な仕様変更こそが、次なる主役——恐竜たちの驚異的な進化を促すことになります。もし今回の話をもっとリアルに感じてみたいと思われたら、ぜひ「大絶滅展」を訪れてみてください。そこには、文字や画像だけでは伝えきれない、地球と生命の凄まじいしぶとさが展示されています。

沈黙した大地で、生命はすでに次の反撃の準備を始めていました。足元の土を少し踏みしめてみてください。そこには、かつて地獄を生き抜いた先祖たちの、静かな鼓動が今も息づいているのです。

「大絶滅展 ―38億年の歴史に刻まれた5回の大量絶滅―」

【火山と大量絶滅の歴史】
第1回:90%が死滅したペルム紀末。窒息する海と連鎖するドミノ(本記事)
第2回:恐竜が地球の主役へ。三畳紀末の逆転劇
第3回:白亜紀末の恐竜絶滅。巨大火山と隕石衝突のダブルパンチ

【厳選:本棚の資産になる書籍】

  1. 『ビッグファイブ大絶滅図鑑』(海保 邦夫 監修、川崎 悟司 著)🔗[紙の本]
    • 137種もの絶滅生物を圧倒的なビジュアルで紹介。ビッグファイブの仕組みを視覚的に網羅しており、最初の一歩として最適な一冊です。
  2. 『超巨大噴火と生命進化』(佐野 貴司 著)🔗[Kindle版] / [紙の本]
    • 火山にフォーカスした一冊。巨大噴火がいかに地球環境を変え、生命を絶滅させ、そして進化を促したのかという破壊と創造のドラマを科学的に解説しています。
  3. 『史上最大の大量絶滅では何が起きたのか?』(土屋 健 著)🔗[Kindle版] / [紙の本]
    • 96%の生物が消えたペルム紀末の謎に迫る一冊。当時の地獄のような光景をリアルに想像しながら読み進められる、ミステリー仕立ての傑作です。
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